北海道急ぎ足・・・2006夏
今回の旅は、ＪＡＬのバースデイ割引を使い（２００８年現在、もうありません）、２連休で駆け足の北海道を楽しもうと思います。誕生日の前後に使えた、とても割安切符。ということで私の誕生月、7月の北海道を楽しむことができるようになりました。
目玉は、サラブレッドや太平洋を見ながら日高本線にのんびりゆられるということがひとつ。そしてもひとつ、帯広近辺に湧く植物性の温泉モール温泉に浸かること。
ところが、最初からミスを二つ犯してしまい・・・。
実は、行きの航空券を予約するのに、女満別か釧路行きを取っておけばよかったものを、残り少ない席数に焦ってしまって、行きが夕方に千歳へ、帰りが帯広から午前中に関空に向けて出発という、あまり時間が有効に使えないプランしかできないような路線を予約してしまったのです。
日高本線は、苫小牧から北海道の南を太平洋に沿って襟裳岬の手前、様似というところまで通じている本線とは名ばかりのローカル線。沿線にはサラブレッドが放牧されていてとても気持ちのいい路線（のはず・・・笑）。乗り通すと結構時間がかかります。もし千歳空港の近く、苫小牧を朝出発しても、終点の様似から襟裳岬を回るバスに乗って、広尾というところで乗り換え、有名な幸福駅があった、旧広尾線の跡をたどってやっと帯広に着くと、もう夕方遅い時間になります。なのに飛行機は午前中に出てしまう。だから苫小牧までの、逆コースをとるプランの方が時間を効率的に使えてよかったわけ。でも、バースデイ割引を変更しようと思えば、半額の手数料を払ってキャンセルし、もう一度買い直さなければならないとは。しかたがないですね。
で、ちんたら前置きが長かった割にはあっというまに千歳着。
千歳には夕方遅くに着きます。で、明日は室蘭本線という乗ったことがない線で苫小牧まで行こうと考え、とりあえず岩見沢に泊まることにします。これからの詳しい予定はまだ立ってません。
繁華な千歳空港地下のホームから出発した特急エアポート号は岩見沢に１９時２３分、定刻の到着。千歳空港から乗ったこの列車では、指定席を取ったんだけど、通路側になってしまいましたよ。北海道の景色を楽しもうと思っていたのに残念。
夕食場所を求めて、岩見沢の町を歩きます。北海道は涼しいねえ。肌寒いと言った方がいいかもしれん。今日泊まった、秋田屋旅館の奥さんの話によると、これでも夏らしい感じなんだそう。
大きな駅前ロータリーを左に折れ、ずんずん繁華街とおぼしき方向に歩いていきます。ラーメン屋発見！恒例のラーメンで夕食。ちょっと失敗しましたけどね。
２０分くらい歩いて、古い市場を見つけました。なんかなつかしい匂い。建物のまんなかに通路があって、両側に魚屋や八百屋が並んでます。おばあさんがひとり、店の主人と談笑しながらお買い物。市場の客は一人だけ。それだけのことなんですが、こういう風景はお気に入り。
今日の宿は、秋田屋旅館。駅から線路沿いに歩いて数分のところにある、新しいきれいな旅館、ここに来るまでに二つ旅館を通り過ぎましたが、ふたつとも古い駅前旅館の風情を残していて、こっちにすればよかったかと少しだけ後悔。でも、ここ、人気はあるらしくほとんどの部屋は埋まってます。どうして分かるかというと、不思議なことにここではドアの前にスリッパをぬいで部屋に入るようになっておって、部屋に人がいるかということはおろか、何人いるかまで一目で分かってしまうしくみ。
明日の天気予報を確認。日高方面はどうも雨らしいですよ。うらめしい。がっかりしながら、千歳空港で買った道内時刻表を見ていてふと気づきます。なにも、日高本線に必ず乗らなければならない訳ではないじゃないか。もっと天気がよさそうなところを通って帯広に出ればよいじゃないか。考えられるルートは三つ。
１ 朝一番の室蘭本線で追分まで行き、そこで夕張行に乗り換え、夕張の街を少しだけ見て新夕張から石勝線で帯広を目指す。２ 滝川で根室線に乗り換え根室線で帯広を目指す。３ 旭川まで行き、美瑛経由富良野線で富良野まで行き、そこで根室線に乗り換えて帯広を目指す。
夕張には行ったことがないので、１が有力候補だったけれど、天気の予報がもうひとつ・・・。時刻表と首っ引きでできた新しいプランは、３。美瑛で途中下車して、ほんの少しだけ町の散策ができる。ここまで決めてるあいだに、いつのまにかお酒がまわってぐらんぐらんしてきます。寝ましょう。
馬ぞり像が存在感を示す岩見沢駅
翌朝。プランどおり、岩見沢発６時２５分、旭川行の普通列車に乗り込みます。土曜だからでしょう、がらがらで、何人かの高校生が乗り込んでくると、みんな申し合わせたように自分より後ろ側、車両の端についているロングシートの座席の方へ行きます。妙に静かだと思っていると、みんなロングシートをベッドみたいにして寝てますよ。なるほど、こういう使い方があるのかと感心関心。
みんな靴をちゃんとそろえてあるのがほほえましい
各停だから、一つ一つ小さな駅にも停まりながら北を目指します。小さな駅で目につくのは、何年ものあいだ、だれも踏んだことのないと思われる、茶色に変色したホーム。ある駅では、跨線橋の入り口がベニアで封鎖されてました。昔のようにたくさんの人が利用しなくなったということでしょう。
あちこちで蕎麦が一面に白い花をつけてます。麦畑の茶色と入り組んで、シンプルで大きな図形が車窓に浮かび上がります。
まだ、古い駅前旅館の残る、砂川。ここで泊まったらよかったと思ったり。
赤や緑のトタン屋根で、とんがり屋根や、片方に長く傾斜のついた屋根の家の集落が広い畑の中にあるのを見ると、北海道に来たのだと感じます。
旭川で半時間ほどの待ち時間。朝食にしましょう。激辛という言葉にさそわれて、ロッテリアのホットバーガーをテイクアウト。すでに、ホームに入っている美瑛行の列車の中でぱくつきます。発車時間が近づくつれ、どんどん客が乗ってきて席はほとんど埋まっていきます。中国人の観光客もグループで乗ってきます。
富良野方面は長いトンネルの向こう側。
日が差してきて、日が当たる方に座っていると汗ばむくらい。よかった、こっちにきて。雨に降りこめられるのはあまりね。
美瑛駅。聞き馴れないアナウンスだなと耳をすますと、中国語ですよ。ものすごく中国人観光客が多い。列車の中でもあっちこっちで中国語が飛び交ってます。これはおどろき。
中国語が飛び交う重厚な美瑛駅。
ここで次の富良野行まで４０分ほど待ち合わせ。レンタサイクルで町を回ります。有名な丘の方はどうやら遠いので、町なかの古い家を見つけていっぱい写真を撮る私。北海道らしい家で、しかも時代の匂いのする家が割と多く残っていて、全然観光客がこない町の生活道路を、ぐるぐる転がします。
肉屋さん。豚の絵がとてもかわいいんです。
こんな感じ。トタン屋根から突き出た煙突が北海道らしいです。
駅に帰ってきたら、レンタサイクルのおかみさんは、こんなにちょっとしか乗ってないんだからお金はいらないと、受け取ろうとしない。またきてください、ありがとうございますとにこにこしながら頭を下げられて、困ってしまったけれど、好意をありがたく受けることにしました。今回の旅は最初から運がよくないことが続いてましたが、これだけで気持ちがほがらかになりました。
さて、私とおなじ富良野行の列車に乗る、数十人の客がホームにいましたが、ほとんどが中国からのグループでした。ここまで多いとはと、驚いてしまいます。中国にもこのくらいの景色のところならたくさんあると思うのに。でも、関西では決して見ることのできないおおらかな車窓風景に目を奪われます。丘のなかに例の北海道式の家がポツンと立っていて、そこから向こうはずっと見える範囲まで緑の草地。あるいはそこに背の高いポプラがすっくと立っていたり。
ううん、北海道だねえ。
美馬牛、上富良野、西中、と途中の駅で観光客とおぼしき人が降りて行きます。レンタサイクル屋さんでもらったパンフレットをみると、散歩するのにいいポイントがあちこちに点在しているようですね。
中国人観光客はにぎやかに談笑。みんな楽しそうです。おいおい、わざわざ前の席に移動してきて、あきらかに私をバックに記念撮影してますよ。
さて富良野で乗り換え。一緒に乗ってきた乗客は、ほとんど乗り換えずに、改札口から出て行きます。昔、家族キャンプで何度か来たことがあります。
大雨の中テントを設営していると、声をかけてくる人がいる。だれかと思えばなんと職場の同僚じゃないですか。全くの偶然にほんとうにびっくりした思い出があります。
右の列車から左の列車へ乗り換え。ここから根室本線。
改札へ向かう人の波から外れて、跨線橋を降りると滝川からやってきた釧路行各駅停車はもうホームについてます。一両編成でしたが、ここであと一両後ろにつないで２両編成。富良野線は新しい車両でしたが、こちらは古い気動車で、窓もちゃんと開きます。灰色の扇風機が回っていて、その扇風機にはＪＮＲとかかれてます。Japan National Railway。国鉄時代そのままの雰囲気。この雰囲気が本当にいいねえ。ホームで駅弁なんか売ってたりすると、もっといいんだけど。ボックス席に陣取るとやがて、列車はゆっくり発車します。
富良野駅の看板。
都会ではなく
田舎でもなく
観光地でもなく
北海道でさえ
ないような
不思議な時間が
流れる町。
ラベンダーの花香る
北の国
富良野から
初夏のスケッチを
お届けします
山部を出ると、だんだん山へ差しかります。天気予報どおり、山の向こうはにび色の雲に覆われてます。
金山から東鹿越まで長いトンネル。上り坂。古いエンジンがうなるうなる。うぉーんという音が車内を満たします。トンネルを出ると、複雑な形の湖。まだ上り坂が続きます。石狩から十勝へ少しずつ近づいてます。天気もどんどん悪くなっていきます。山の中の東鹿越駅は、もう使われていないような線路が何本も並んでます。交通の要所だったのかと思っていると、ホームに大きな岩が転がってて、そこに黄色いペンキで「石灰岩」と大書してあります。ホームの上の方には採石場が。多分ここで採った石灰岩を貨物で運ぶための引込線だったんですね。しかしもう使われなくなって久しいその線路の多くは、北海道特有の巨大なふきに覆われてしまってます。
幾虎駅。映画「鉄道員（ぽっぽや）」のロケ地で「幌舞駅」として使われたところ。まだそのままになってます。駅前にはロケで使われた店がそのまま。でも、作られた古さ、安っぽさが伝わってきて、日常の中に非日常が入り込んできているような奇妙な感覚に打たれます。
落合駅で約１５分停車。立派な駅舎が打ち捨てられています。雪の重みででしょう、ひさしが一部曲がってしまっている。ここの跨線橋がすばらしい。（と思うのは私だけでしょうが・・・苦笑）
落合を出ると、いよいよ十勝です。小さないくつかのトンネルを越え、狩勝トンネルの中で千歳線と合流。すでに勾配は下りになってエンジンの音もからからと軽やかに変わっています。スピードが上がる。トンネルを出ると広大な十勝平野がずうっとむこうに広がっているのを見ながらぐるりとカーブを描いてその中に降りてゆく、はずでした。トンネルを出るとそこに待っていたのは一面の霧。前回に続いて、今回もまたこの沿線随一の景色を見逃してしまいました。つくづく縁がないです。
この霧の向こうに十勝平野が広がって・・・。
帯広についたのは１３時３９分。駅前のナガサキヤを目指します。というのは、確かここに豚丼のうまい店があったはずだからですよ。うんうんやっぱり本当の豚どんはうまいねえ。注文してかなりかかるのだけれど、豚肉を焼いて甘辛いたれをからめたのがどんぶりにいっぱい載ってきます。もっとも、全国的に有名な店も近くにありますが、ここは行列ができていて、ちょっと・・・。空腹状態の私にこの行列は無理です。
実は、帯広でレンタカーを借りようと思っていました。今日借りて、明日、空港で返せば、然別や足寄のほうまで足を延ばせるかな、とも思っていたから。でも、昨日の夜中、忘れもしない３時４０分に、どすどすという音に仰天して変な夢を見て起こされ、それ以来まんじりともできなくなってしまい、その寝不足が今頃効いてきて、どうやら車を運転するのは危険な状態。だれかさんの足音だったようですが、まったくあの音ときたら。とにかく、えらくしんどかったので、そのまままっすぐ、今日の宿、ホテルボストンを目指して歩き始めます。ところが、少し狭い道を選んでてくてくやっていると、興味をそそる建物がどんどん出現するじゃないですか。そう、例の、北海道らしい、しかも時代を生き延びている感じが出ている建物です。
本日の夕食を食べることになる蕎麦屋。
古い写真やさん
中心街を少し離れるとそこかしこにあります。おもしろいのは、路地の両側に長屋のようにスナックや飲み屋が軒を連ねている小路が多いこと。その小路の名前もふるっていて、ダイレクトに「遊楽街」。そして「祇園街」。いくつも同じような道を見かけます。なかにはすでにほとんどの店が廃業しているような場所もありますが、そうでもないようなのも多く見受けられます。
ね、おもしろいでしょ。
歩いていると、惹きつけられる建物がどんどん出現して、そのたびに右に回り、左に曲がってなめるように街を見ながら歩くのでホテルの姿は一向に大きくなってきません。しんどいなどと言っておきながら、随分時間をかけてホテルに到着。
こっちは表玄関
今日の宿「温泉ホテルボストン」は不思議なホテル。古びた裏口が、マンションと、公衆浴場の共用入り口になっていて、そこを入って行くと反対側がホテルの入り口になってます。ちょうどその真ん中当たりに浴場を示すのれんがかかっていて、生暖かい湿っぽい、そして硫黄臭がきつく臭う空気が充満しています。その空間を過ぎると、フロントに突き当たる格好。壊れそうなエレベータで３Ｆに上ります。古くてやれが目立ちます。しかしなんと、部屋のユニットバスにも温泉がきている。
なぜこのホテルを選んだかというと、帯広近郊では温泉の泉質が一番だといううわさをネットで目にしたからなんです。
さっき前を通った浴室に行ってみます。ウーロン茶のような色に、硫化水素の匂いが漂い、飲んでみると丸い味でとてもおいしい。浸かってみると、肌がつるつる。浴槽の中程から湯がどんどん吹き出していて、あふれるままにまかせてます。翌朝、朝風呂に入っていると、清掃が始まったのだけれど、桶や敷物はみんな温泉で洗ってました。カランから出る湯やシャワーも桶にためると茶色がかってます。番台で聞いてみると、やはり温泉が混じっているということ。豊富な湯量を誇っているようです。このホテルを選んで大満足。評判のとおりの泉質でした。
さて、風呂から戻ると、昨日の寝不足で疲れが頂点に達し、ベッドに横になってぐうぐう。起きると６時半。はやく街に行かないと、店も閉まって買い物ができなくなりますよ。
おいしかった地ビール
まず藤丸デパート。ここで地ビール、「モール温泉ビール」「十勝ビール」をホテルで飲むために、六花亭の菓子を家族の土産に購入。ここから、帯広駅方面に出てもよかったのだけれど、そんなに食欲がある訳でもないので、ホテルにチェックインする前にみつけた、いい感じの建物「更級そば」でソバを食べることにします。店に入ると、薄暗い店内にはだれも客がいないのであれれとびっくり、つぎにおろしそばを頼むと、大根を切らしている、とろろもだめ、納豆そばもだめ、入っていった時に店主がちょっと驚いた顔をしたので、きょうはもう仕舞うつもりだったんでしょう。
帯広は天気が悪いせいか、冷え込んでいるという方がいいような気温で、これが晩秋を思わせるんですよ。人どおりのない道を歩いていて、この肌寒い風をくらうと、いつものことなんですが、名状しがたい寂しさに襲われます。今日も、この体中がぎゅっと縮んでしまうような寂しさを何度も。北海道に住んでいたらいまどきこんな風くらいで寂しさを感じることはないんでしょうが、体は住んでいる風土になじむということですね。同じ風だと思っても、こちらに住んでいる人と、自分とでは違ったものとして経験されているということですね。
最終日。５時過に目覚め。モール温泉を満喫し、今日の予定をどうしようか、考えます。７時過のバスで旧幸福駅に行って、そこで一時間半ほどすごして空港バスに乗るか、あるいは町を散歩するか。昨日の街歩きで気に入った建物をいっぱい見つけて気をよくしていたので、街歩きをすることにしましょう。
大通りを挟んで、昨日と反対側を行きつ戻りつしながらまた、写真をいっぱい撮ります。
どうやら、帯広駅の周辺は再開発がほぼ終わった状態で、さら地になって歯が抜けたようになっている場所が目立ちますが、その間にときどき、随分年代を経た風格のある建物や、すでにその役目を終えて荒れるにまかされている建物がいろいろ見つかりました。
何げない町角ですが、数軒奥には有名なジャズ酒場”黒んぼ”が見えます（昭和31年創業）
圧巻は、馬具商と大きな看板を掲げた、蔵作りの店で、中をのぞくと、まだ店をやっているようです。馬のためとおぼしき金具がいっぱいかけてあった。また、最近は見ることができなくなった、板塀の家も、もう打ち捨てられていたけれど、玄関の梁から突き出した、丸い電球カバーなども風情があっていいですねえ。
また一時間ほどぐるぐる歩いて、駅で朝食。空港バスに乗ってとかち帯広空港へ。なんでこんなに帯広から遠いところにわざわざ空港を作ったんでしょう。バスは、十勝平野らしさあふれる一面の畑の中を、かなりのスピードで走って、旧幸福駅をちらりとかすめ、とかち帯広空港に到着。楽しかった二日間はあっと言う間に過ぎてしまいました。
ちらりと見えた幸福駅
旅の終わり
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