カブでミニツーリング・・・京都〜柳生〜竹ノ内峠〜古市
東北ツーリングよりこの方、カブ君は京都に置きっ放しになっていましたが、私は普段、大阪のとある町にある職場の最寄り駅にカブ君を置いて、最寄り駅から職場までの通勤に使っています。駅からバスだと不便なので、大阪にカブ君を連れていくことにしました。
けれど、ただ行くだけでは１号線や１７０号線と、つまらない極致にある道をのろのろ排気ガスにまみれながら走り続けなければなりませんから、どうせならツーリング気分で行こうよとカブ君と盛り上がった結果、本日大阪までのミニツーリングが挙行された訳です。
大まかなルートは次のようなプラン。京都〜笠置〜柳生〜宇陀〜桜井〜大和高田〜羽曳野〜とある駅（笑）
朝６時前に出発です。ふだんはゴチャゴチャしていて通りにくい祇園、八坂神社の石段下辺りも日曜早朝ということですいすい。２４号線に入って、やっぱりいつもの混雑が信じられないような国道をすとーんと南下します。
城陽で３０７号線を左折、東に向かい、宇治田原で府道６２号を右折。これで山を越えると笠置です。さすがは宇治茶の産地、一面にお茶の畑ですね。山の斜面が全部茶畑になっていて、山に茶の畝の模様が横一直線の緑の帯として、いくえにも浮かび出てます。霜を防ぐための扇風機が茶畑に向かって設置され、強い日ざしを防ぐ黒いネットがひと所にひきよせて畳んであります。さすがは宇治茶、手間をかけて栽培されているんですね。
茶畑に囲まれて爽快に走っていると、急に道がせまくなります。
もうカブ君は慣れたもんですが、車一台やっと通れるような道。そして峠越え。右に折れたかと思うとすぐ左。急カーブ急坂の連続。あまりすれ違う車もないです。急にまた道が広くなって和束。ちょっといい感じの風景。
今度は木津川に沿って少し東へ、国道１６３号線。すぐ笠置の町に入り、南に折れて木津川を渡ります。これで府道４号線。ぜんぜん案内が書いてなくて地図で確認。木津川の南側には、大きな笠置温泉の建物。もちろその上は笠置山。平安時代に信仰を集めた笠置寺がその頂上にあります。あの藤原の道長も参詣したといいます。笠置寺のふもとは府道沿いに商店が並び、少しにぎやか。でも少しですよ。ここもまだまだ昔の面影を残しています
笠置温泉の立派な旅館
家並みが途切れたところからまた深い山に入っていくカブ君。さっきと似た、細くて薄暗い心細くなるような道。しかも峠を越えたところから下りはきつい坂道、つづら折り。で、道がなだらかになったと思ったらそこが柳生の里でした。
川向かいに石仏があるらしい、ちょっと見てきます。
いやはやこれはすばらしいものでした。崖に埋め込まれたようなあんばいの、人が二人すっぽり入ってまだ余るくらいの大きさの岩に、仏が２体彫り出されています。大切にされているらしく、あたりはきちんと掃き清められていて、お供え物や千羽鶴が置かれています。とにかくその柔和な表情に魅せられてしまった私はしばらくここで時を過ごします。阿対（あたや）の石仏。その石仏の隣にもう一体仏が安置されていて、子供ができない人が豆腐をお供えして拝むと子宝に恵まれるんだとか。実際に豆腐（中身は入ってませんでしたが）のパックが一つ置いてありました。子供と豆腐の関係がよく分かりませんが、なにか民俗学的な意味がありそうな気がします。
石仏を過ぎると、里に出ます。剣豪柳生一族が住んだここは、ひなびた田舎の風景。武家屋敷や陣屋が残っています。
風景いくつか。
十兵衛杉。柳生十兵衛が植えたと言われているんですが、枯れて壮絶な姿になってしまっています。
そして、十兵衛杉から眺めた風景。右
武家屋敷。まだ開いていません。時計見ると８時過。
疱瘡地蔵だと勘違い。疱瘡地蔵の矢印をたどって歩いた旧街道に、忽然と姿を現します。最初はあまりの自然さに気づかず通り過ぎてしまいました。後で調べてみると、これは疱瘡地蔵ではないことが判明。残念。疱瘡地蔵とは会えないままになってしまいました。
旧街道。こんな道を昔の人はてくてく歩いたんですね。
柳生を後にし、府道から別れて国道３６９号を南下。田舎道をのんびり走ります。とんがったところの全然ない道。平和そのものの道。収穫間近の稲の匂いが鼻腔をくすぐります。いやあ、「すべて世はこともなし」って雰囲気の道でした。これが、名阪国道と交差する、針が近づいてくると車が増え始めます。
榛原（宇陀）からＲ１６６。いよいよ大和盆地に入ってきました。
桜井の駅前で、たまたま古い町並み発見。
西進します。振り返ると三輪山。大神（おおみわ）神社のご神体です。そして、大和三山「耳成山」「畝傍山」。
天の香久山は撮りそびれました。この辺は住宅が立て込んでいて、山を見渡せる場所がなかなかありません。昔なら全部まとめて見えたんでしょう。これら大和三山はいつ見ても不思議です。平地に忽然と山がもりあがる。しかも同じような大きさの山が三つ、ぽつぽつと三角形の頂点に配置されている。自然の造形の妙ですね。
そして、大和側から見た二上山。あとで出てきます。
どんどん西進です。この大和盆地から、大阪に抜けるにはいろいろはルートがありますが、今日は竹内（たけのうち）街道、Ｒ１６６を通ることにします。というのも、この道、日本で最古の官道なんですよ。渡来人が、大和に向かう時に通ったであろう道。さまざまな珍しいものが大陸を通って大和にもたらされた道でもあります。ということは、今の日本の礎を築いた道と言っても過言ではないかも。そんな昔の一級国道は、現在、あまり顧みられることのない道になってしまっているようです。この街道の大和側の起点に近い竹内。ここを通るから竹ノ内街道と呼ばれるようになったようですね。時代は下って江戸時代には、この道は伊勢詣での道として、依然にぎわっていたようです。鉄道の関西本線が通じるまでは、この道がまだ大和へのメインルートであったそうな。現在、ところどころに昔の街道が国道沿いに残っていて、とても落ち着いた雰囲気を醸し出しています。昔からの集落は、道幅を広げる際によけて通しているので、今でも昔ながらの雰囲気を味わうことができます。
まず竹内。国道より何百メートルか南側に、その道が残っています。両側には古い家が立ち並び、ぐねぐねと曲がりながら、すぐに峠に向けて上り坂。
峠の頂上。大阪府との境界です。
このすぐ下に二上山の登山口があります。駐車場が整備されていて、昔何度か登った記憶では、一時間もかからずに登れたと思います。ふたこぶの高い方の峰が雄岳、低い方が雌岳。雄岳の頂上には、大津皇子の御陵があります。
その昔、大津の皇子が葬られたのがこの二上山。有名な話ですが、天武天皇の息子、大津皇子は天皇に対して謀反を起こそうとしたというかどで、自害させられてしまいます。どうもだまされたという感じが強いんですが。そして、二上山の頂上に葬られる。皇子24歳の時の出来事でした。
死の前日に皇子が詠んだ
ももづたふ磐余の池に鳴く鴨を今日のみ見てや雲隠りなむ
という絶唱が万葉集に見えます。当たり前の景色。慣れ親しんだ磐余の池に鴨が浮かんでいる。その日の皇子にはどう映ったでしょうか。「今日のみ見てや」の「や」に皇子の痛切な叫びが込められているように思われます。明日はもうこの世にいない。自分はいなくなっても磐余の池は同じようにあり続けるだろう。鴨も同じように鳴くだろう。彼がこのように詠うことによって、彼が池のほとりにたたずんでいた一瞬は永遠の今として切り取られたんです。この歌を読む人はその今を、皇子と共に経験してしまう。この歌を読むと胸が締め付けられないではおかれません。
大津皇子の姉、大伯皇女（おおくのひめみこ）の歌もやはり万葉集に見つかります。
うつそみの人にあるわれや明日よりは二上山をいろせとわが見む
万葉集に収められた胸を打つ挽歌。姉大伯皇女が、あなたの眠る二上山をあなたと思って眺めるよ、という歌。
今、二上山の登山口には、たくさんの車が停まり、ハイカーたちの楽しそうな顔が見えます。
峠を下ったところが、太子町。聖徳太子の墓所、叡福寺があります。近鉄南大阪線の上ノ太子駅を越えると、昔の街道そのままの雰囲気。これが現代の国道とは思えない。集落の中では車同士のすれ違いもできないほどです。ここから、東高野街道と交わる古市まで、現代の国道ではあるけれど、タイムスリップしたような町並みをいくつか通ります。といっても、わざわざ昔の状態に保存してあるのではない、ごく普通の、日常生活の場なんですよ。すでにぎっしり家が建っていたために、道幅を広げることができなかったんでしょう。それが幸いして、昔の道がそのまま残ったんですね。この辺りの道を通るのがとても気に入りました。車ではちょっと二の足を踏みます。なかなかすれ違えないでしょうから。
山の斜面を利用して、ブドウ畑が広がります。このへんは葡萄の産地なんです。そして、ここで採れる葡萄を利用して、
「河内ワイン」てのも作られています。
これが国道166号線です
で、国道終点の古市。名前からして昔から栄えた事が伝わってきますが、最初に書いた、竹内街道と、東高野街道の交差点として、そして近くを流れる石川の水運の拠点として昔からにぎわった町。いまも、ぎっしりと家が立て込んでいます。
古市の町並み。
古い建物発見。羽曳野市商工会。後で調べてみると、明治時代に建てられ、もとは銀行（富田林銀行）だったらしい。
竹内街道はここからまだ西へ堺までつづきますが、今回は竹内街道とはお別れ。ここからカブ君を、とある駅の（笑）駐輪場に置きにでかけます。あちこちよりみちしながら、約６時間。たのしいミニツーリングでした。
今日の地図
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